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学座・とうごまの葉の下


キリスト教主義教育運動
by gakuza1994
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本読みのひろば2

◆『天皇の逝く国で』◆みすず書房◆ノーマ・フィールド著◆大島かおり訳◆二八〇〇円+税
◇著者は米国人を父とし、日本人を母として、米軍占領下の東京に生まれた。高校卒業後に米国に渡り、シカゴ大学で日本文学と日本近代史を教えた学者である。
◇一九八八年から八九年にかけて昭和天皇が逝く日本では、一斉に自粛ムードが全土を覆った。この歴史的時間を東京で過ごした著者は、日本人の行動様式や心のメカニズムを改めて知る。その行動様式とメカニズムに潜んでいる問題性を詳述したのが本書である。
◇著者が取り上げたのは、天皇、日の丸、護国神社という、戦前の日本と大東亜戦争を押し進めた、日本を象徴する人間、旗、施設に対して抗議の意を表し、手を上げた三人の人物である。沖縄の国体会場で日の丸を焼いた知花昌一、殉職自衛隊員であった夫の護国神社合祀に対し訴訟を起こした中谷康子、天皇の戦争責任発言をした本島等長崎市長の三人である。
◇彼等の行動とそれに対する反動は、戦争否定の平和思想と戦争を推進する危険思想を明示する。
◆『ならずもの国家アメリカ』◆講談社◆クライド・プレストウィッツ著◆村上博美・鈴木主税訳◆二二〇〇円+税
◇一見疑いたくなるタイトルである。米国政府内で、「ならずもの国家」と呼ばれてきた国があるが、著者は、サダム・フセインのような残忍な輩や独裁政権と同列に置くつもりはないが、今や、米国こそが、「もはや逸脱して、抑制が利かず、理屈が通らぬ、予測不能な性向をもつ」ならずもの国家になってしまった、と警告している。
◇著者は、日本の大学に留学した経験もある知日家で、国務省勤務、民間企業勤務の後、商務省に入り、レーガン政権では商務長官特別補佐官として日米貿易交渉にあたった。現在は経済戦略研究所々長であるが、米国長老派教会のクリスチャンホームに育ち、今も年長のメンバーとして教会生活を送る。
◇著者は、米国をマタイの福音書五章十四節にある「丘の上の町」に喩え、米国が世界を導く光となる理想の国だと信じてきたが、今、完全に世界と敵対するばかりか、自らの理想からも逸脱し、世界に類なき軍事大国、すなわち帝国になった、と説明している。
◇地球温暖化防止のための京都議定書を批准しないと発表したブッシュ政権は、包括的核実験禁止条約の拒否、国際軍事裁判所への不参加、弾道弾迎撃ミサイル制限条約(ABM条約)の破棄、その他数えられないほどの単独行動主義に走り、平和を好みながらも戦争を繰り返す軍事中心経済の国家になったと言う、政権内部にもいた人物のことばには説得力がある。
◇靖国神社問題をも含め、日本が最大限の努力をして、第二次世界大戦に終止符を打たねばならぬ、という具体的な提言も、保守的なクリスチャンの発言であるだけに、大いに参考になる。
◆『現代の戦争被害~ソマリアからイラクへ~』◆岩波新書◆小池政行著◆七〇〇円+税
◇戦争に反対の意思を表現しないことは、賛成することを意味する。無関心も同様である。戦争に反対しない人は、戦争被害の惨状の詳細を知らないから、反対しないと言わざるを得ない。もし無残な実態を知ったならば、反対の声を挙げずにはいられないだろう。
◇一般大衆であれ政治家であれ、被害の現実を知っても、なお戦争に反対しないとすれば、それこそ残虐者、テロリストと呼ばなければならない。現代の戦争被害は、それほどまでに惨たらしいのだ。
◇ベトナム戦争はベトナム人死者約二〇〇万人、負傷者約三〇〇万人、米軍死者約六万人で、負傷者約十五万人を出したことを例示し、現代の戦争が圧倒的な民間人犠牲者を出すことを、著者は説明する。
◇ベトナム戦争の猛省に立って米国が考え出したのは、武力介入を止めることではなく、「ゼロ・オプション」と呼ばれる、自国兵士の犠牲ゼロを目指す戦争方法である。この戦闘方法が、「現代の戦争でさらに多くの民間人の犠牲を生じさせているのではないか」を追求することが、本書の目的である。だが米国が起こした湾岸戦争、アフガニスタン攻撃、イラク戦争は、米兵の死者をゼロにはできなかったし、当事国双方に多くの犠牲者を出した。
◇一九九〇年代に米国がソマリアに「人道的」介入をして以来、国連や国際世論を無視して突っ走る米国単独の軍事行動が「ゼロ・オプション」と相まって、数多くの民間人犠牲者を出した現代の戦争被害の惨状を、本書は描いている。
ソマリア、ボスニア・ヘルツェコビナ、コソボ、アフガニスタン、イラクでの被害を露にしていく。
◇著者は、北欧担当の外務官僚を経て、日本赤十字社国際部参事。日本赤十字看護大学、青山学院大学法科大学院などで国際人道法を教えている。
◆『在日』◆講談社◆姜尚中(カン・サンジュン)著◆一五〇〇円+税
◇著者の姜尚中は、東京大学社会情報研究所で政治学と政治思想史を教えているが、テレビ・新聞・雑誌などで、幅広い問題に発言してきた。彼は伝わらない事や伝わりにくい事を伝える使命感から、メディアを通じて積極的に発言するのだが、彼がメディアに登場するきっかけとなったのは、そもそも外国人登録法による指紋押捺拒否の埼玉県「第一号」となったことにまで遡る。だが彼がクリスチャンであることと入信の経緯を知る人は、筆者も含めて少ない。押捺拒否を支えた土門一雄牧師がいなければ入信はなかった、と言う。押捺拒否を悩む原因を作った日本人こそが悪いと、土門牧師は著者を励まし続けたのである。
◇本書は、「在日」二世として熊本に生まれて以来、「永野鉄男」から本名の「姜尚中」に変わるまでの歩みを、同時代の世界の時事問題、日韓関係の出来事などを織り交ぜながら描いた、著者が言うように「自伝的な記念碑」である。
◇オモニ(母親)から始め、著者に影響を与えた「二人のおじさん」そして「天皇と父の死」と身近な人物や出来事を、「在日」と絡めて説明し、在日問題の本質を見事に描いている。父親が死に、墓石に刻む名前を家族で話し合った時、著者は迷った末に、日本名で刻むことを主張した。「在日」として生きた人々の記憶を子孫が決して忘れないためだ、と著者は説明する。
◇「在日」が強制連行という日本の侵略戦争の遺物であるとの理解は、戦後六〇年を迎え、ますます風化しつつある。日本人が「在日」の悲哀の歴史を忘れないために何ができるだろうか。

by gakuza1994 | 2007-09-27 22:58 | 本読みのひろば2
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